「ラブ日記?」
「え〜、知らないの?今はやってるんだから。」
きゃあきゃあと女の子達が騒ぐ。授業中、教科書の下にノートを隠して授業以外のことをやっていた女の子達を叱っていたはずが、いつの間にか件のノートの話で盛り上がっていた。
「好きな人のことをね、書いていくの。」
「今日はどんな服装だったとか。」
「お昼に何を食べてたとか。」
「誰と何の話をしてたかとか。」
「おいおい、じゃあ何か?授業中、好きな男の子が何をしているか書いていたっていうのか?」
いささか呆れ気味にイルカが言うと、くノ一の卵達はきゃあ、と黄色い声をあげた。
「だってラブ日記だもの。」
「先生もやってみたらわかるわよ。」
「好きな人のことを見つめた書くのってドキドキしてすごく幸せなんだから。」
「あのなぁ。」
イルカはこめかみを押さえた。まったく、女の子っていうのは本当に扱いが難しい。
「とにかく、授業中には禁止。今度見つけたら没収、そして。」
にんまりと女の子達を見回す。
「先生がじっくりと音読してやる。」
きゃ〜、先生ひどーい、オヤジーっ、
悲鳴をあげる女の子達に再度お灸を据えてから解放し、イルカはやれやれと首を振った。まったく、彼女らにとって恋は人生における最重要課題らしい。
「ラブ日記ねぇ…」
好きな人のことを書く自分だけの秘密の日記。ふっとイルカの胸を銀色がよぎった。慌ててブンブンと頭を振る。
「ババババカじゃねぇかオレ。つっつまんねぇこと考えんじゃねぇ。」
ゴンゴンと廊下の壁に頭を打ち付けた。
「まてまてまてオレ、女の子じゃねぇんだし、オレがやったってキショイだけだって。」
だが、一旦芽生えた誘惑はどんどん大きくなっていく。イルカはぴたり、と動きを止めた。
「……誰かに見られるわけでもねぇ…か…」
怪しい笑いが口元に浮かぶ。
「ふ…ふへへ…」
足取り軽くイルカは職員室へむかった。もちろん、事務に新しいノートをもらうためである。時折スキップしているところを誰にも見られなかったのはただ幸運だった。
☆☆☆☆☆
◯月X日 晴れ
今日もはたけ上忍はカッコよかった。報告書を受付られてラッキーv手渡す時に指が触れた。今日は手を洗わずに寝ようと思う。
◯月□日 曇り
今日もはたけ上忍はカッコよかった。銀髪の逆立ち具合が少ししんなりしているってことは、午後から雨になるか。髪の毛で天気まで当ててしまうはたけ上忍はやっぱ里一番の忍びだと思う。
◯月◇日 雨
今日もはたけ上忍はカッコよかった。なんつーの、水も滴るいい男って奴。って、実際任務帰りで水が滴ってたんだけどな。あぁ、はたけ上忍から滴った水、持って帰りてぇ〜。
「……なにコレ。」
はたけカカシは呆然とノートを見つめた。受付とアカデミーを繋ぐ渡り廊下に落ちていた一冊のノート、事務方から支給される飾り気も何もないただのノートだ。持ち主に返してやろうかと名前を探したが見当たらなかったので、何の気なしに中を見たのだが、まさか自分のことが書かれているとは。しかも「ラブ日記」とある。
「や、しかし、ねぇ…」
自分がモテるのは知っている。ただこの日記、、ノリが妙だ。いったいどんな女が書いているのやら。
「……見なかったことにしよう。」
カカシは落ちていた場所にノートを置いた。ヘタに届けて事態がややこしくなったら困る。その時だ。バタバタと騒々しい気配がやってきた。咄嗟に身を隠す。同時に黒髪の男が受付棟から走り出てきた。
「やべぇやべぇやべぇっ。」
ひどく慌てている。きょろきょろと辺りを見回し、ノートを見つけるとあからさまに安堵の色を浮かべた。
「うっわ〜、よかった〜。」
男はノートを拾い上げると、再び辺りを見回す。
「誰も見てねぇよな。」
あちこち見渡し、それからホッと大きく息をついた。
「あ〜、よかった。」
もう一度そう呟くと、ノートを大事に懐へいれ、再び受付棟へ戻っていく。カカシは今度こそ呆気にとられてその後ろ姿を見つめた。
「イ…イルカ先生…?」
今のはナルト達の恩師、うみのイルカだ。7班の引き継ぎの時に知り合ったが、特に親しいわけではなく、行き会ったら挨拶をかわす程度の間柄だ。
「イルカ先生がラブ日記…?」
どうにも結びつかない。だが、ノートを見つけた時の反応は、確かにあの「ラブ日記」がイルカ本人のものだと言っている。
「……どゆこと?」
カカシはただぽかんと突っ立つばかりだった。
|